嫌味な甘さを省いた生姜醤油の潔い味わい
JR鶯谷駅北口から、言問通りを越えて尾竹橋通りをちょいと進むと、右手に「根岸小学校」、その角を右折し、 15 メートルほど行った先に、こぢんまりと佇む下町の洋食屋「ビクトリヤ」が現れる。
創業は昭和 27 年。2代目主人大原俊一氏と奥さん、従業員の3人で切り盛りする店内は、カウンター4席、テーブル 18 席ほどで、昼時はいつも満杯だ。
鶯谷の裏話でも書いているが、 23 歳頃この界隈に住んでいた。当時「ビクトリヤ」を認識していたものの、若かったものでいつも金がなく、小銭があったとしてもほとんど酒に消えていた。最近、この界隈が懐かしくなり徘徊していて、
「あっ、この洋食屋さん記憶にあるな」
と、ふらっと入店したのだ。
一通りいただいたが、どれも文句なしの味わい。特に「ヒレ肉の生姜焼き」をお勧めする。当然ロースもあるが、ヒレの生姜焼きは洋食屋で見かけたことがない。ヒレというと脂身がなく、どこか淡白で面白みに欠ける食材だが、「ビクトリヤ」には胃袋を唸らせる技がある。嫌味な甘さを省いた生姜醤油のタレの潔い味わいに、脂身の心地よさを錯覚させるような肉のほどよい歯ごたえ、ご飯がすすむこと間違いなしだ。またハンバーグ、カニコロッケ、エビフライなども実にうまい。
主人は音楽好きで、若いころはジャズ喫茶、クラブに入り浸り、自らもフルートをたしなむ人である。よってBGMはいつもジャズが流れている。また武蔵丸親方が、関取になる前からこの店に通っていたそうで、たまに店に食べに来るそうだ。![]() |
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「ヒレ肉の生姜焼き」はライス、コーヒーがついて1100円。ロースとは違う食感と旨さで、「豚肉の生姜焼き」の既成概念を気持ちよく覆してくれる。 | さっぱりとした人柄の店主、大原氏。ジャズだけでなく、車にも造詣が深い。話もうまいため、取材を忘れついつい話し込んでしまった。 |
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食器や看板、マッチなどに使用されているマークは、大原氏自らによる考案。店名「ビクトリヤ」を英字表記した際の「V」「T」「R」を配している。料理だけでなく、店内の小物にまでこだわる姿勢はまさに職人。 | 店内には有名人も含め、「ビクトリヤ」を訪れた人々の写真がずらりと並ぶ。どれもが満足気な笑顔で写っているのが印象的。これも大原氏の確かな仕事のなせる業だろう。 |